#6彼女は懐かしの友人 トドの女の子 (水族館編)
これは、トドの友人のお話です。
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もうだいぶ昔の話である 。
記憶の中では今もなおキラキラしたあの日々が思い出される。
年月が経つと美化されるから苦い思い出すら懐かしい。
当時、彼女はオチャメでピチピチな感じの女の子だった。
目はパッチリとクリッとしている。口はおちょぼ口のような具合でかわいらしい。声には張りがありよく通る。日本語を話すわけではないけれど、なんとなく伝えたい事はわかるのが面白い。分かりやすい性格で、オチャメで遊び心もある。
私の性格とも相性が良くて、いわば友人のような感覚に近かった。
最初は見た目の大きさに怖さも感じた。体長が私の数倍は大きくて、 体重が300 kg ぐらいで迫力がある。日々関わりながら信頼関係をお互いに築いて、徐々に身近な存在になった。
彼女の好物はホッケ。1日に大きなバケツ2杯(16kgくらい) をペロッとたいらげる。ちなみにもっと好物はイカだけど毎日はあげられない。
基本は大きな口で丸のみ。たまに遊びながらホッケ(サバやシシャモのときもあった)を器用に投げて回転したのをキャッチして食べていた。
おしゃべりな娘だから給餌(きゅうじ)タイムの前に私を見掛けると、オーオーとよく話し掛けてきた。
早めに準備して時間まで待たせるとオッオッオーとか何とか言いながら、文句を言っていた。
給餌の時には、いくつか簡単な種目も教えた。
観客の側まで近づいて、大声で鳴いてみせたり、あっかんべーのポーズをしたり、迫力とかわいらしさを兼ね備えて、結構人気だった。
ちなみに、どうやって教えのかというと...
自分の声を使って最後にホイッスルにすり替える。トドも声をちゃんと聞き分けてるからすごい。日本語分かってる風なのだ。
ホイッスルはこちらを見ていなくてもわかる合図だから、遠隔サインに向いている。
教える時は、その時の状態とこちらへの注目と集中力を頭に留めておく。
アシカ(トドはアシカの仲間で最大種)は、足し算的な教え方が向いている。
少しずつ目標の動きを目指して進める。進める中で、間合いや引っ掛け問題を上手く使って、理解度合いも探る。そして、短時間でベスト(沢山褒める)な状態でスパッと終了させる。
↑簡単に書くとこんな具合。ABAだね。
トドのトレーニングも基本は同じ。でも、その時は同じ場所にオスのトドも居た。
気を付けたのは、同じタイミングで、ホッケのバケツを空っぽにすることだ。
なぜかというと...
どちらかが早く食べ終わると、相手のを欲しがるから。そして、大喧嘩になる。本当に大声でワーワーガフガフ言いながら、体当たりと口をガッと開けて咬み合う仕草で威嚇し合うものだから、
巻き込まれたら大変だし、かなりうるさいし、水がの飛び散りかたもまたすごい。
大概オスの方がホッケの量が多いから、彼女が奪い掛かるわけで、身体が2倍近いオスに向かっていくなんて、なんて男気溢れた娘なんだろうかと関心もするが、、余計な喧嘩はないほうが平和だから、同じタイミングでバックヤードに下がる。
彼女は、掃除の時もたまに私の方へ来て、デッキブラシやホースに興味ありますよ~的な感じで近付きつつ、長靴やつなぎを気にしてみたり、遊ぼう的な感じで誘ってくることもある。誘いにのってあげたい気持ちもあるけど、さすがにあなたたちの遊び方では一緒に遊べない。潰されちゃうからやめておくね。
私が好きだったのは、夕方が近付いてくると、お腹も満たされて陸場でのんびりしているときの彼女。
トドもアシカのように全身細かい毛で覆われている。その毛が乾き、茶色くモフモフになっているのだ。
ぬいぐるみのようなかわいさで、ちょっと硬めだが、なかなか良いさわり心地なのだ。
しかも寝るときは、後ろ脚をお腹側に持ってきて前脚で挟みながら寝ている時もある。身体はとっても大きいけど、こんなにかわいらしい寝姿でギャップ萌えだ。
(モフモフ感のイメージ写真)
私が離れてから、久しぶりに、会いに行ったとき、観客側から大声で名前を呼んでみた。3年位経ってたけど、ちゃんと覚えていてくれた。勘違いではない。
よく私が名前を呼び、彼女は「アーッ」と返事をしてこちらを見るという遊びをやっていたから。それを、試したら思い出して「アーッ」と言いながら探してくれた。何度も。単純に嬉しいし、ちょっと感動した。
もう近くに寄ることは出来ないけれど、
ちゃんと声を覚えていてくれたのが、すごくジ~ンッときた。
あれから数年後に行ったときには、もう反応を返してくれなかったけど、元気に泳いでいて嬉しかった。
そして更に時が経ち...
最近、彼女は虹の橋を渡ったようだ。
虫の知らせか何なのか、ホントに久しぶりに情報を目にして知った。
前回、会えたのは一昨年のこと。
まだ、元気だったけれど、年を取ったね。
お互い様か。
遠い記憶になって、奥底に閉まってあったけど、久しぶりに思い起こしてみた。
大分、色褪せたかなぁ...
いや、
今も、心の中のあの日の記憶は、鮮明にある。
彼女と過ごした 宝物のような日々も。
今までありがとう。どうぞ安らかに。
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またそのうち、他の水族シリーズも書こうと思います。
またね☆ミ